沖縄県の基地問題について取り上げられる機会が増えています。その中でも特に大きな焦点になるのが「沖縄だけが負担する必要があるのか?」という点です。
要するに、沖縄の米軍基地が多すぎるから減らせ! と、こういうわけです。
まあ、おさらいはそのくらいにしますが、古来戦争において基地というのは最前線にあるべきもの。そこで、日本国内で外国領土が近い場所を中心に、「最前線」の状況を比較してみることにしましょう。
ここでは、韓国に面する「対馬」、米国その他に面する「小笠原諸島」、ロシアに面する「北海道」を考えてみます。
対馬には自衛隊の対馬警備隊という組織がいますが、人数は700人程度で訓練不足と戦力的には残念な感じです。少なくとも、基地問題などは殆ど起こっていません。対馬は韓国からは目と鼻の先にある島で、攻略されると北九州への上陸が容易になることでしょう。しかし、中国やロシアから攻撃されるような位置ではありません。
小笠原諸島にも幾つかのごく小規模な基地がありますが、救難や偵察がメインの戦力であり、装備も人員も僅か。小笠原諸島は日本の南東に位置する島々がありますが、ここを攻撃する可能性のある国はアメリカぐらいです。太平洋戦争の頃には硫黄島が要塞化されて大規模な戦闘があり、硫黄島を攻略した米軍は硫黄島の飛行場から戦闘機を飛ばしてB29を援護しています(B29は更に南のマリアナ諸島から来ていた)。米国と戦争をするなら大規模な基地が必要ですが・・・要らないですよね。
北海道についてですが、ここに関しては話は別です。ロシアの領土である樺太が目と那覇の先にあり、海岸線も広いのでどこからでもロシア軍が上陸可能です。さすがに戦力を置かないと大変なので、自衛隊は5つある方面隊(軍団)の1つが丸々割り振られています。陸上自衛隊の中でも最大規模の戦車部隊を有しており、日本最大の陸上戦力があると言っても過言ではありません。やる気満々です。ちなみに、基地は多いですが、土地も多いので何の問題もないわけです。
さて、ここで問題になるのが中国です。
沖縄は中国から最も近く、最も攻撃を受ける危険性が高い場所。九州もそれなりに近いのですが、本土から潤沢な援護を受けられる地域ですので過度に心配する必要はないでしょう。ただ、注目するべきは沖縄も九州も南シナ海を挟んでいるということ。広い海を挟むと、戦力を船で移動させる必要があるので南シナ海の制海権争いが重要になります。
制海権を奪うには海軍と空軍が必要ですが、空・海戦力は佐世保を含めた北九州各地に基地があるため、九州は万全です。また、九州はそれなりに大きいので南シナ海の制海権は九州の戦力に任せれば良いじゃないかという考え方もあるでしょう。基地撤廃派の中には、きっとそういう考え方をしている人達も多いはずです。
沖縄には小規模な偵察戦力だけにしておき、九州の戦力で守り切れないのでしょうか?
実は、南シナ海を守るだけなら九州に大規模な基地を作り、(沖縄に戦力を置かないのは勿体無いものの)そこから戦力を送るだけで「南シナ海」はなんとかならないこともありません。しかし、九州から沖縄を守ることは非常に難しいのです。
というのも、「九州から沖縄までの距離」と「中国から沖縄までの距離」が殆ど同じくらいであり、中国の侵攻を察知してから戦力を送っても手遅れです。つまり、沖縄には九州から来る増援が来るまで中国の攻撃を凌ぎきる戦力が必要で、それ相応の戦力が必要になります。
それならそれで米軍じゃなくても自衛隊でも良いじゃないかという話ですが、守るだけなら確かに自衛隊でも良いでしょう。しかし、もし戦争を終わらせるために「敵基地を攻撃する必要がある場合」には米軍でなければ困ります。自衛隊は基地攻撃や上陸戦のための戦力を殆ど保有しておらず、石垣島や宮古島を占領された時に沖縄の自衛隊戦力で奪還できるかというと微妙です。本土からの増援を待っている間に中国から続々と増援が到来するでしょう。
それなら、自衛隊は南シナ海の制海権や沖縄上空の制空権確保に専念して、上陸戦や基地攻撃は米軍に任せてしまいましょう。という考え方になってしまいます。
攻撃されない前提の対馬や小笠原、上陸してから領土内で撃退しようという北海道とは違って、沖縄という戦場は極めて特殊です。反撃には上陸戦が必須で、制海権を完全に確保するには中国国内のミサイル基地などを破壊しなければならないでしょう。
日本にある米軍基地が沖縄に集中しているというよりも、米軍が必要な場所に基地を入れたら沖縄に集中してしまっただけです。歴史的経緯から来た不運という側面からだけで考えるのではなく、「代替地がない」という言葉の意味を軍事的な重要性も考慮して理解する必要がありそうです。
もちろん、中国が本当に攻めてくるのかどうか、基地の規模が妥当なのかは検討の余地があります。今の軍隊は昔と違って量より質の時代。中国の戦力を軽視するわけにはいきませんが、規模を小さくするという選択肢で妥協できないものなのでしょうか。