スコルペヌ型潜水艦の機密情報流出は豪州にどれくらいの影響を与えるか?

仏企業から潜水艦の機密情報が大量流出」なんてニュースが飛び込んできた。そうりゅう型潜水艦の書籍を執筆し、スコルペヌ型の記事も書いている身としては触れずにはいられない話題だ。

この情報流出がオーストラリアの潜水艦選定や軍事戦略にどれほどの影響を及ぼす可能性があるのかについて触れていきたい。

情報流出の内容

驚くべきことに「流出した2万2400ページに及ぶ文書」とあることから、殆ど全ての情報が漏れてしまったと考えるべきだろう。

おそらく、これは海外の政府に売り込むために作られた「仕様書」に近いもので、潜水艦の性能を知るために必要な必要な全ての情報が記載されているはずだ。

自国の兵器を海外に販売する場合、多くの場合「ダウングレードモデル」が使われる。これは本当に他国には知られてはいけない重要な技術を隠すためであり、輸出大国であるドイツ・ロシア・中国などはよく行なってる。

米国の場合は同盟国との信頼関係に応じて完璧なものを渡すこともあるが、最先端の技術については必ず隠す。

普通に考えれば、外国向けの技術文書であれば本当に渡したくない部分は隠していると考えるだろう。そうりゅう型の情報を選定のために豪州に渡した時でさえも、日本は「自国生産」にこだわっていたため、全ての情報を伝える必要はなく、ある程度はぼかして伝えていたはずだ。

しかし、この「スコルペヌ型」は最初から輸出のために作られた潜水艦だ。フランス軍は原子力潜水艦を運用しているし、スコルペヌ型は使っていない。つまり、この文書に記述された情報の情報はダウングレードモデルなどではなく、真の性能が書かれた文書と考えられる。

はっきりいって、相当にヤバいレベルの情報流出となってしまった可能性が高い。

日本でもちょこちょこ情報漏洩の報道があるが、このレベルの流出は見たことがない。

豪州の選定に影響するか?

影響は多かれ少なかれ必ずあるはずだ。

ただ、豪州の潜水艦は原子力潜水艦ベースの設計であるため、スコルペヌ型とは直接的な関係はない。

しかし、設計部分に関係がなくとも、通常動力型の技術はその多くがスコルペヌ型がベースになると考えられる。そのため、豪州の潜水艦に使うはずだった技術もそのかなりの部分が流出してしまったはずだ。

当然、豪州としては何らかのアクションを起こさざるを得ないだろう。選択肢の一つに「フランスではなく日本のそうりゅうを選びなおす」というのも、あるにはあるかもしれないがさすがに考えにくい。

基本設計が違う上、豪州の潜水艦は新型艦。最悪、「スコルペヌ型を遥かに超える技術を投入します」と言われれば、選定を覆すのは難しい。

また、ある意味豪州にとってはラッキーだったかもしれない。

というのも、これで「フランスの技術を減らして自国の独自技術を投入できる」ようになったからだ。米国の管制システムを導入するという話もあるし、「今回漏れた技術は使わずに作る」という選択肢も十分に考えられる。

どうしても自国で作れなさそうな部分やフランスの技術で美味しい所だけもっていって、ほぼ自国製の潜水艦を作れれば豪州としては願ったり叶ったりだろう。

そもそも、フランスが提案した新型潜水艦は「性能」では「そうりゅう」よりやや上かほぼ互角、「信頼性」では「そうりゅう」より劣る可能性が高いにも関わらず選ばれた。新しく設計する新型潜水艦としての性能が重視されたとしても、やはり「自国で作りたかった」という気持ちが見え隠れしている選定だった。

日本も新型潜水艦の開発が決まった

ちなみに、豪州やフランスがごたついている間に日本は新型潜水艦の開発を決めた。

どんな潜水艦になるかは未知数だが、「高張力鋼板」「リチウムイオン電池」「水素電池」の技術が組み合わされば、相当なレベルの潜水艦が出来ることは間違いない。

潜行深度・速度・静粛性・航続距離では、正に他国の追随を許さない最高峰の通常動力型潜水艦ができるのではないだろうか?

ただ、私が気になっているのはC4Iシステムなどの管制系だ。ハード面では圧倒していても、米国レベルの管制能力には到達していないと聞く。自衛隊は全体的に兵器のデジタル化が遅いイメージがあるのだが、その辺はどうなのだろう?

まあ、米国と比べるのがそもそもの間違いなのかもしれない。

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