情報の正確さと分かりやすさは時にトレードオフになってしまう

ニュース、コラム、レポート、論文、様々な文章の形はあるけれど、そこに含まれている情報の形は様々です。ニュースは事実だけを簡潔に伝え、コラムは個人の意見を交えて少し深掘りした情報を分かりやすく読者に伝えます。一方、レポートや論文は難解な情報をひたすら正確に伝えるために多くの文字を使って書かれ、読む人によっては理解できないものになります。

どれも情報を伝える媒体という役割は同じ。ただ、それぞれ目的が少しずつ異なっているだけです。「正しい情報を伝える媒体」と「分かりやすく情報を伝える媒体」は、何がどのように違っているのでしょう?

例えば、「3丁目の交差点で事故があった」という場合。それに伴って現れる媒体は「ニュース」と「レポート」になるでしょう。ニュースは淡々と「正しい情報を伝える」だけで良いですし、レポートは「事故の詳細で正確な情報が記載されている」だけで十分です。

しかし、事故に「運転手の特殊な疾患」や「車の技術障害」があった場合には少し状況が異なってきます。ニュースやレポートに記載される専門家の情報は、正確ではあるものの一般人には理解できないのです。もちろん、無関係な一般人が知らなくても大きな問題にはなりませんし、無視しても良いのかもしれません。無知な一般人に中途半端な情報を流すくらいなら、知らないままで良いと思う人もいるでしょう。

「運転手が脳梗塞を発症していた」としましょう。この情報だけなら、避けようのない事故という認識になるはずです。ところが、「この脳梗塞の症状は緩やかに進むタイプで本人も脳梗塞の認識があった上で運転していた」となると今度は運転手への批難が強まります。その上で、「事故の原因が脳梗塞ではなく、事故によって脳梗塞が悪化した」可能性もあるわけで、脳梗塞と事件との関係はよくわかりません。

脳梗塞に詳しい人なら、運転手が検死で脳梗塞を発症していた事が分かったとしても「簡単に事故原因を判断できない」ということがわかりますが、ニュースで事実だけを淡々と伝えられてしまうと一般の人は誤解してしまうでしょう。

当然、脳梗塞について一般の方にも分かりやすく説明してくれる人が必要になります。ここで脳梗塞のしくみを医師が説明するわけですが、脳梗塞のしくみも様々で簡単に説明できるものではありません。そもそも、医師が何年も体のしくみを勉強してようやくしっかりと理解できるものです。

一般人の人に1分で完全に理解できる説明をするのは不可能でしょう。必然的に分かり易さを優先し、但し書きを入れつつ「脳梗塞の概要」について説明してしまう事になるはずです。ところが、これは事故の脳梗塞とは微妙にしくみが違っていました。

厳密な定義から言えば、「間違った情報」「誤解を与える情報」を伝えてしまったわけです。もちろん、「参考までに」という但し書きや再三の断りを入れています。それでも、鵜呑みにする人はいます。

これを是とする否とするかは人によります。事故の原因となった脳梗塞がはっきりと確定しており、簡単に説明できるのなら良いです。今回はそうでなかったケースと考えてください。情報が正しく理解されない可能性がある場合、わかり易さを優先して微妙にニュアンスの違う説明や分かりやすい方の表現を選んでしまいます

つまり、情報の正確性とわかり易さは時にトレードオフになるということです。

それを究極的に表しているのが商品名などの一般名詞化です。例えば、「シャープペンシル」や「シャチハタ」がそれにあたります。これは「シャープ」や「シャチハタ」の商品名であって、それぞれ「ノック式(機械式)鉛筆」や「スタンプ型印鑑」などの分類名称があります。シャーペンなどは既に一般名詞として広く認知されているほどです。

あまりにも一般的になっているため、シャープ製かシャチハタ製かを確認することなく、同様の製品を「シャーペン」や「シャチハタ」と呼称することは既に当たり前になっています。同じく、「瞬間接着剤→アロンアルファ」「絆創膏→バンドエイド」「無線呼び出し機(ページャー)→ポケベル」などなど、数えだしたらきりがありません。

瞬間接着剤やスタンプ式印鑑を購入する時に、「アロンアルファ」と「シャチハタ」買って来てと言えば確実に通じます。しかし、情報としては正確ではありません。最悪の場合、「セメダイン」や「三菱鉛筆製スタンプ印鑑」が置いてあるにもかかわらず、「売ってなかった」と言って帰って来ることもあり得ます。

それなら正確に伝えれば良いのですが、「瞬間接着剤」や「スタンプ式印鑑」よりも素早くイメージ出来る表現が「アロンアルファ」と「シャチハタ」ならそちらを伝える方が分かりやすく効率が良いということはよくあります。

一生懸命説明しても全く理解されない事もあれば、ざっくり説明しすぎて誤解されることもあります。普段の生活や人間性が現れる部分ではありますが、相手に何かを伝える時には相手に合わせた表現が大切ですね。

 

 

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